-言語の2つの基本原理-

 今回はソシュールの指摘する言語の2つの原理である恣意性と線状性
について説明します。

 線状性と恣意性を簡単に表現すると次のようになります。
(1)恣意性ー聴覚イメージと概念は本来的に異なるもので無関係である
   ということ
(2)線状性ー言語記号の単語が、一列に並ぶ性質

 前節では、言語の本質を「聴覚イメージと概念の結びつき」としました。
しかし、ソシュールはこの2つの結びつきは恣意的なものだと表現しました。
改めて、ここでいう恣意的とは、個人が自由に選択できるという意味ではなく、
『記号そのものには、特定の概念と結びつかなければならない理由がない』と
いうことです。例えば、「air」という文字が、日本語の「空気」の意味を持っ
ているとしても、そこには「air」という文字で表現しなければならない理由
などないということを指しています。

 しかし、この恣意性の問題は擬音語から考えると当てはまらないような気も
します。例えば、雨の音を表現する「ザーザー」という言葉は擬音語ですが、
この聴覚イメージには概念とのつながりが恣意的ではなく必然性があると
言えないでしょうか。ソシュールは、(1)擬音語の数はあまり多くないこと
(2)擬音語の聴覚イメージも変化すること(例えば、雨の音を表現するpluit
という言葉は、昔はplovitという言葉を使っていました)この二点から言語の
基本的な原理としての恣意性に疑問を投げかけるほどにはならないと考えました。

 次に、線状性についてですが、これはよく分かるように記号が鎖のほうに
一列に並ぶ様を指摘しました。日本語で言えば、左から順に読むように
日本語が一列に並んでいますが、線状性とはこの並びのことを指しています。

 この線状性は、複合語の問題に触れると利点がよくわかります。例えば
「おじさんハゲ」と「ハゲおじさん」とでは意味が変わってくるのが
わかると思います。前者がおじさんを指すのではなく「禿げたおじさんの
ような禿げ方」というのに対し、後者が「禿げたおじさん」そのものを指すのです。

 このように言語には、恣意性と線状性があることが指摘されました。
これらは当たり前のようにみえますが、この事実をきちんと指摘し、専門の用語
として定着させた人はソシュールであるとされています。

 次節では、恣意性と線状性について別の用語でまとめてみましょう。